拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
今回お話しする内容は、いたってシンプルです。
私たちが扱っている野菜、つまり東京産の野菜は、なぜ美味しいのか。
その理由を12のポイントに分けて、解説していきたいと思います。
「都市農業だから」というところと、「地産地消だから」というところがごちゃっと混ざっていますが、そのへんはご了承ください。また、農業経営はケースバイケースですから、あくまで平均的に見た場合の話、あえて一般化した場合の話だということもご理解いただければと思います。
それでは、いってみましょう~!
(1)新鮮
なんといっても、新鮮であること。そして、流通経路が短いことです。
トウモロコシやアスパラガスなど、いかにも鮮度が命の野菜はもちろんですが、実はピーマンや春菊なども、採れたてのものは格段に味が違います。



(2)樹上完熟
一般的に野菜は草本(木ではなく草)ですが、完全に熟すまで待って収穫することを「樹上完熟」と言います。
地産地消だからこそ、完熟を待って収穫できます。
大産地では輸送時間を考慮して若いうちに収穫せざるを得ず、どうしても味が一段階落ちてしまいます。
トマトやイチゴなどがこれにあたります。


(3)進取の精神・研究熱心
東京都内の農家さんとお付き合いしていて驚かされるのは、皆さんがとても研究熱心だということです。新しい品種や栽培方法をどんどん試しています。
その理由としては、後述するように消費者との距離が近いこともありますが、そもそも「東京で農業を続けよう」というのですから、農業に対して高いモチベーションを持っている農家さんしか残っていないのです。
また、兼業農家が多いことはデメリットだと思われがちですが、「美味しいものを作ろう」というモチベーションがあることを前提にすれば、試行錯誤に伴うリスクを負えるということでもあります。
その結果、より美味しいものを作ることができるわけです。
(4)味重視の品種選択&作型選択
これは大産地と比べた時の話です。
野菜の品種は、例えばキャベツひとつとっても山ほどあります。その中から何を選ぶのか?
大産地では、耐病性の高さや安定した栽培、あるいは重量の出やすさが重視される傾向があります(ケースバイケースであり、それがすべてではありませんが)。
しかし、消費者との距離が近い東京では、相対的に「味重視」の品種が選ばれます。(ありていに言えば、農家さんだって褒められたいのです。)
たとえば、国立市の中屋農園では、トウモロコシの品種に「ピクニックコーン」を選んでいます。背が高いため倒伏のリスクが高く、実も小ぶりです。それでも、その味わいに魅せられる人が続出しています。

作型(栽培時期)についても、同じことが言えます。
典型的なのが、ジャガイモです。秋に収穫するジャガイモは、夏に収穫するものに比べて、圧倒的に収量が落ちます。なので、大産地や多摩エリアでも基本は夏収穫が主流です。
しかし、中には味を最優先し、あえて秋収穫のジャガイモ、通称「秋じゃが」(品種はデジマなど)を作る農家さんがいます。その味わいは、まったくの別物です。
(5)ないときはない!
東京で加温ハウスを使って栽培されている作物は、トマトやイチゴなど、ごく一部です。
大部分の野菜は、露地や無加温ハウスで栽培されています。収穫できない時期には、「ないときはない」という割り切りがあります。
つまり、味が最高潮を迎える旬の時期にだけ、収穫・出荷されているのです。スーパーなどで通年流通している野菜と比べて、相対的に美味しく感じられるのは、このためです。

(6)畑が狭い
畑が狭いということは、「目が行き届く」ということです。何ヘクタールもある広大な畑では、すべての株を細かく見て回るわけにはいきません。たとえ1枚の畑であっても、手前と奥とでは環境が微妙に異なります。
たとえば春に旬を迎えるセロリなどは、そうした環境の違いに合わせて、職人的な感覚で水分量をこまめに調整することが大事です。そうした繊細な管理ができるのも、畑が比較的コンパクトだからこそです。
また、収穫時にも差が出ます。厳密には株ごとに生育状況が異なりますが、畑があまりに広いと一斉に収穫せざるを得ず、一番美味しいタイミングから少し外れたものが混ざってしまうこともあります。
その点、多摩エリアの畑では、一株一株の状態を見極めながら収穫する光景が、ごく普通に見られます。
(7)水がある、水はけがいい、土がいい
「東京は農業に向いている」と言われたら、ちょっと意外に感じるかもしれません。しかし実は、多摩エリアには、水はけや土壌など、農業に向いた環境条件がそろっている地域があります。
多摩川周辺には用水路が整備された地域があり、水量を適度に調整できます(地域によっては、水道や井戸などの水源が近くにない畑も珍しくありません)。かといって、水分過多になりやすい低湿地ばかりでもありません。
また、国分寺崖線上部の台地や玉川上水沿いには、水はけがよく、畑作に向いた土地があります。土壌の養分という点では、もともと決して恵まれていたわけではありませんが、長い年月をかけて落ち葉や動物性たい肥をすき込み、土壌改良を重ねてきました。
国分寺市の「こくベジ」が「三百年野菜」を掲げているように、国分寺の農業と土づくりは、江戸時代から受け継がれてきました。その積み重ねはダテではないと思います。こうして長い時間をかけて育まれた土も、東京農業の強みの一つです。
(8)自分の子どもも食べる!
東京の農家さんは、基本的に地産地消スタイルです。つまるところ、「自分の子どもや地元の友人が、その野菜を食べる」という環境にあります。
多摩エリアでは、学校給食を主な販路の一つにしている農家さんも多くいます。自分の子どもが通う学校の給食に使われるとなれば、野菜づくりに愛情を注がないわけがありませんよね。
(9)競合の少ない珍しい品種を作る
これは、ほかの産地と味そのものを単純に比べる話ではありませんが、地産地消型の農業では、周囲の農家さんが身近なライバルになります。そうすると、「周りの農家さんとは違う珍しい品種を作ろう」と考える人が、自然と出てきます。
その代表例が、「江戸東京野菜」や「西洋野菜」です。
そうした珍しい野菜が食卓のバラエティを豊かにし、結果として「地元の野菜は美味しい・楽しい」という印象を強めていると、私は考えています。


(10)自分の名前が付いている!
現在の東京では、「共同出荷」というスタイルはあまり見られません。かつては一般的でしたが、今では少なくなっています。
直売所に並べようが、地元の飲食店に納入しようが、学校給食に出そうが、誰が作った野菜なのかが明確です。地産地消では、生産者は自分の名前を隠すことができません。
「顔が見える」ということは、消費者にとっては安全・安心の証であり、生産者にとっては品質への責任を意味します。

(11)自分の性格にあった品種、作型
共同出荷ではないということは、自分が育てたい品種や、自分に合った作型を選べるということです。
農業に限らず、どんな仕事でもそうですが、仕事のスタイルと自分の性格が合っている方が、よい成果につながりやすいものです。
農家さんも人間ですから、性格は十人十色です。
たとえば、ガガッと一気に仕事を片付けるのが好きな人もいれば、日々コツコツと作業を積み重ねるのが好きな人もいます。ブルーベリーなどは酷暑期に収穫のピークを迎え、その時期は集中的に頑張らなければなりませんが、それ以外の季節は比較的ゆったりと管理できます。
このように、自分の性格や生活スタイルに合った品種や作型を選べることも、農産物の品質を高めることにつながっているのではないかと、私は考えています。
(12)心ある流通屋の存在
いよいよ最後の理由です。少し手前味噌な話になってしまいますが、東京には、熱い志を持って農産物の流通を担う事業者や団体があります。私たちエマリコくにたちだけでなく、いくつもの民間企業、そしてJAやNPOも含まれます。
きちんとした流通があってこそ、野菜本来の美味しさを食卓まで届けることができます。
流通過程で品質を保つことはもちろん、美味しく食べるための調理方法や保存方法を提案したり、農家さんの工夫や思いを伝えたりと、食卓の美味しさを支えるうえで、流通が担うべき役割はたくさんあります。
農家さんが責任感を持って野菜を栽培しているのと同じように、責任感を持ってバトンをつなぐ流通屋がいる。このつながりも、東京農業ならではの強みだと、私は思っています。
以上、東京産の野菜が美味しい理由を、12のポイントに分けてご紹介しました。
いかがでしたか?
ほかにも、まだまだ理由があると思います。「こんな理由もあるよ!」と思いついたら、ぜひ教えてくださいね。
この記事を書いた人:

食べるTOKYO編集部 ライター
株式会社エマリコくにたち代表取締役
1982年生まれ。一橋大学在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。
2005年に一橋大学商学部卒業後、三井不動産、アビームコンサルティングを経て、国立市に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。
2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。都内の多数の生産者をネットワークし、“背景流通業”を掲げて駅前型直売所「しゅんかしゅんか」や飲食店などを幅広く展開する。
「東京農サロン」主催メンバーのひとり。
